これまで様々な目的で主に金融業界の競合サイト/サービス比較のプロジェクトを担当してきましたが、ここ数年はリニューアルの際の具体的な検討材料の収集を目的とした調査ということで、ユーザーの観点を組み込んで実施することが多くなってきましたので、そちらのやり方・考え方を紹介したいと思います。

一般的な競合分析調査との違い 

一般的に競合分析というと、比較対象となるサイトやサービスを何らかの評価項目に沿って調査していくようなものであったり、単純なサービスや機能を比較することをイメージされるかと思いますが、その場合、各社の違いがどういった意味合いを持つのかが伝わりにくいと感じていましたので、ユーザーの状況、利用文脈に沿ってサイトを見て分析するやり方で行っています。

各社の施策も含めて見ていけば競合サイトの戦略も見えてきますが、競合サイトの表現の部分を細かく分析しますので、デザイン設計フェーズの検討材料にもなりますし、最終的にどういったカタチになるのかを予め頭に入れた上で戦術を考えることも有効だと感じます。

どんな人に何をどう伝え、どう動かそうとしているかを分析 

流れとしては、まず比較対象となる各サイトの表示している情報や配置の仕方、文言、機能、UI、導線、構造などを「どんな人に対してどうコミュニケーションしようとしているか」という視点で見ていきます。

ここでいう「どんな人」とは、どういった状況の人、どういった文脈で利用しようとしている人、といった意味での「どんな人」です。
例えば、投資サービスの競合分析であれば、以下のようなものです。
・数年以内にiDeCoを始めた人(それ以外の商品は未購入)が、もう少し何か投資してみたいと思って流入する文脈
・住宅購入などのライフステージの変わり目に、将来の資産のことを考えつつ流入する文脈
・つみたてNISAを始めてしばらく経った人がもう少し投資にまわしたいと思っていた時、Youtubeやブログで紹介されていた投資信託が気になって流入する文脈

上記のように、どんな理解・認識の状況か、どんな流れか、などを細かく設定した上で、競合サービスがどんな人に対し、何をどういったカタチ(情報、文言、機能、UI、導線、構造など)で提供し、ユーザーに何をしてもらいたいと考えているのか、また、その狙いは何かといったビジネス視点も考えながら見ていきます。

こうした調査分析プロジェクトの場合、分析時に考えたことが最終的に的確にカタチ(配置・文言、機能など)に落ちることが重要だと思っていますので、最初からカタチ・具体的な物を細かく見て考えていきます。

各社のコミュニケーションを見ていく中で、どんな人に対してどうコミュニケーションしようとしているかが見えてきますので、他社もその文脈で見ていきます。

狙いに対して最適な事例を探す

どんな人にどうコミュニケーションしようとしているかが見えてきたら、次に、そのコミュニケーションの狙い/方向性に対して、実際に提供しているカタチや内容がマッチしているか、最適なカタチになっているかどうかを見ていきます。
こういった状況の人に対し、こう感じてこう動いてもらいたいのだろうな、ということに対し情報、文言、機能、導線などがズレていないか適切かどうか、といった視点で見ていきます。

競合サイトをこうした見方で見ていくと少なからずズレていますので、どうズレているかを考えた上で、今度は狙いに対してのベストプラクティスを探します。
その際には、比較対象のサイト/サービス以外も含めて幅広くベストプラクティスを探します。こういうことをしたいなら、こういったカタチのほうが適しているのでは?、こういったコミュニケーションの方が適切なのでは?、と思えるものを探します。

文言・情報やコンテンツについては具体的な方向性を提示

競合サイトの文言や情報についても細かく見ていきますが、文言の部分については事例を探すだけでなく、いくつか文言例も提示します。
コンテンツも細かく見ますが、こちらも最適な事例が見つからない場合は、こういった切り口のコンテンツでコミュニケーションすべき、といったものを提示します。

特に情報自体やコンテンツについては自社に合った最適なコミュニケーションのかたちがありますので、他社事例だけではなく、具体的に提示するようにしています。
この場合も「どんな人にどうコミュニケーションするか」という観点で考えて、ユーザーと対話するような感覚で言葉を探します。

成果物としては改善施策検討の材料として使えるもの

各社が「どんな人に対してどのようにコミュニケーションをしようとしているか」という部分を具体例を見ることで、自社の方向性を考えやすくなりますので、競合分析業務の目的としても、その視点や検討材料の提供という部分が大きな目的となります。

レポートの内容としては、競合サイトの狙い/方向性と、その狙いに対して各社の設計、機能、内容、表現などが適切かどうか(どういった意味で適切か、適切でない場合はその理由)、そしてその狙いに対してより適した事例の紹介・解説、といった内容となります。

他社も同じような悩みに対して考え、手を打っていますので、そちらの背景を考えたり成果を想像したりすることで自社の対策も見えてきます。

競合分析業務の場合、ひとつの具体的な方向性を提示するところまでは行いませんが、クライアント側で分析結果をもとに検討し、自社の方向性が見えてくれば、改修の方向性や具体的な施策がある程度見えてくる内容としています。

カタチに落とす際の精度が重要

以上、競合分析のやり方・考え方をご紹介させていただきました。

戦略・戦術がきちんとカタチに落ちていないと、前段で考えたことの意味が薄れてしまいますし、効果検証も難しくなってしまうため、全体がチグハグとなり物事が前に進みません。

情報や文言、UIも細かく見ていくといろいろと差がありますし、ユーザーの接点はカタチの部分ですので、その精度をいかに上げるかという点に時間やコストを割くことも重要だと感じます。