これまで金融系サービスのUX向上を目的とした様々なプロジェクトに関わらせていただいていますが、UX向上を目的としたサービス企画・設計の手法について、普段行なっていることや考えていることを踏まえて、ひとつの流れとしてまとめてみました。

流れ

プロジェクトによって範囲や流れも様々ですが、それらをまとめると以下のような流れになります。こちらに沿ってまとめていきたいと思います。

(1)UXリサーチの設計・実施

まず、UXリサーチの設計を行います。以下のような流れ、観点で行います。

1)UXリサーチ設計

基本的には以下のようなことを把握する目的で行いますが、プロジェクトの目的に応じてバランスをとりながら、何を誰からどう探るか、という観点で設計します。

・ユーザーの目標・属性の把握
・行為・利用文脈・流れの把握
・感情・価値・意味・理解の把握

2)被験者選び

被験者選びによって得られることも変わってくるため、調査の目的によって十分に検討して決定します。
主にSEPIA応用法のような考え方で検討しますが、その他、競合サービスのユーザーや自社ユーザーとの併用ユーザーや、特定の商品、サービス利用の有無などを考慮することも多くあります。

3)UXリサーチ実施

普段利用しているWebサイトやアプリを使っていただきながら行いますが、周辺サービスやネット外の部分も含めて幅広にリサーチします。
基本的にはコンテキスチュアル・インクワイアリーという手法で行います。利用文脈の中での行動を観察しつつデプスインタビューを重ねるやり方で行います。

得られる事象の例としては例えば以下のようなものになります。

ネット証券の例:
普段はランキング情報を参考にしてるという発言があった。
普段の行動としてはランキングを見て気になる企業の詳細を見て、その企業の事業に興味を持ったら、メインで使っている証券会社サイトのお気に入りに登録するという流れ、とのこと。

(2)UXリサーチの結果を整理し、ユーザーモデルを作成

ユーザーモデル作成の目的について

ユーザーモデルは一般的にはペルソナ、ジャーニーマップのようなもので作成しますが、ネット証券、ネット銀行などの場合はサービスが非常に多くかつ複雑であるため、作成方法についてはプロジェクトの目的に応じて都度検討しています。

ユーザーモデル作成の目的としては、主に調査結果・分析結果がその後のプロセスにおいて活用しやすくするために作成します。 議論の中心にユーザーモデルを置くことで、その後の作業においてユーザーの認識が薄れていってしまったり、ズレて行かないようにするためです。

本来は関わるすべての人がユーザーリサーチに立ち会い、個別の事象に皆で向き合いながら奥底の価値を把握していくことが理想ですが、それも難しいためモデルを作成し、様々な関係者やマネジメント層と短時間でユーザーの考え方や行動を共有します。
ただし、モデル化したものだけを見て検討してしまうと発想の飛躍が起こりやすいですので、できるだけ個別の事象(とその奥にある価値)も見ていただくようにしています。

ユーザーにとっての価値を整理しつつ奥底の価値を発見する

得られた定性的な情報を整理していきますが、まずは発言や行動などの事象と心の声とユーザーにとっての価値の軸で整理していきます。
事象をそのまま捉えるのではなく、発言や行動にある背景や目的を価値として整理します。
先の事象の例で言えば、ランキングを普段参考にしているという発言の方ではなく、普段行なっている行動と、ランキングを見ている理由や達成したい目的に着目した上で探索し、価値を捉えます。

ユーザーがその行為を行うことで得られる価値や意味、あるいはそれを行う理由の違いに着目して分類することで、本来的な価値(大元の価値、奥底の価値)を導出します。

プロジェクトによっては、あらためてペルソナを作成することもありますが、すでに設定されているペルソナに対してそれらを細分化したり、ユーザーの置かれている状況、サービスの利用文脈・利用目的、購入商品などを追加設定していくこともあります。

(3)シナリオを作成しながら、デザインが実現すべき体験価値を探索

制作したユーザーモデルと整理した価値に対し、自社サービスに関係する部分やその周辺についてのユーザーの行動シナリオを作成します。

整理した価値を中心にして、行動・ふるまい、感情などをまとめていきます。
これから作るサービスを使ってユーザーがどうふるまうか、どのような部分に体験価値を感じるのかが分かるかたちで作成します。
シナリオを作りながら、ユーザーのモチベーション、利用環境を含む利用文脈、利用に対する反応や満足度を考えながらサービスとしての体験価値や、必要事項を明らかにしていきます。

(4)ビジネス的な側面を考慮しアイデア出し

この段階で、ビジネス戦略や自分たちの資産、競合他社状況や外部環境も考慮します。
この段階まで深めてきたユーザーへの理解を大事にしながら、ビジネスと融合・統合するアイデアを出していきます。
サービスとしての提供価値をユーザーの受け取る価値へと変換するようなイメージで考えていきます。本来的には、ビジネス戦略とユーザーにとっての価値が一致することが理想ですので、その観点からアイデアを出していきます。
システム的な制約などの実現の可能性についても多少考慮しますが、この段階では深く考慮しません。

(5)プロトタイプを作成し評価を行う

1)デザイン対象物を検討する

通常のプロジェクトの場合は、デザイン対象物は既存アプリだったり、PCサイトの特定のカテゴリだったりと、あらかじめ対象物決まっていることが多いですが、より広範囲に検討する必要がある場合もありますし、他の手法が最適な場合もあり得るので本来はあらためて対象物を検討したほうが良いと考えます。

2)評価を繰り返しながらプロトタイプを作成

(3)で作成したシナリオと実現すべきデザインのアイデア、(4)のビジネス視点のアイデアをもとに、サービスとしての必要事項を整理し、プロトタイプを作成します。
サービスの必要事項に対する対応の仕方は、UIやデザインのレベルでは様々な方法が考えられるため、価値の大きさや理解のしやすさ、実現の難易度などを考慮しつつ様々なバリエーションを作ります。

プロトタイプについては、随時、チーム内で評価をしながら作成していきますが、ユーザーシナリオと照らし合わせながら評価を行います。

チーム内の評価と調整が落ち着いたところで、実ユーザーによるユーザーリサーチを行い評価を行います。 評価の視点は様々ですが、ユーザーの視点で行うことを基本としつつ、想定したシナリオに対してプロトタイプがうまく機能しているか、十分なものかといった部分も評価します。

ここから先は実装レベルの話となりますが、実装段階でまた新たな問題が発覚することは多々あるものです。その問題に対してもブレずに対処し実現方法を考えていきます。

以上、ユーザーの本質的な価値からアプローチし、かたちにしていく方法についてまとめてみました。

シナリオをベースに設計、検証していくやり方はシンプルで分かりやすいので、ユーザーにとっての価値と、実現するもののズレが発生しにくいように思います。