住信SBIネット銀行は、三井住友信託銀行とSBIホールディングスを出資会社とするインターネット専業の銀行です。
創業当初より、今でこそ一般的になっている証券会社との口座連携や、口座開設時の印鑑レスなど、ユーザー視点で革新的なサービスを次々に創り出してきました。

ヒカリナでは数年前より同社の各種サービス改善やデザイン部分の支援をさせていただいてきましたが、昨年よりアプリのUXリサーチを担当させていただいており、同社のUXデザインについての考え方や今回のプロジェクトについてUXデザイン部の半田さんと関さんにお話を伺いました。

住信SBIネット銀行のユーザー視点でのサービスづくり

— あらためて、住信SBIネット銀行のサービスづくりの体制やUXデザイン部の役割を教えてください。

半田さん:

私たちUXデザイン部は、WEBやアプリの企画・制作・管理、カスタマーエクスペリエンス向上推進、WEB開発のフロントエンド統括部門として活動をしています。主なミッションは、最適な顧客体験をデザインし顧客と組織が発展していくことと、最先端の体験をわかりやすく、素早く提供することを掲げています。

体制としては2016年にマーケティング部門でWEBサービスを運営していたチームを母体として発足、何度かの組織改編を経て現在に至ります。当時シェアを広げていたスマホ領域への対応強化ということで、モバイルシフト、モバイルファーストを掲げ、システム部門ともアプリ運営をインハウスにして機動力を持てるようにしました。

— サービスづくりについて特徴的なことはありますか?

半田さん:

当社の特徴としてよく言われるのは、「スピード感」でしょうか。サービスづくりにおいても、ユーザー視点含めたスムーズな合意形成のしかたを突き詰めていくと、UXディレクターやUIデザイナーが早期にプロジェクトに参画し、企画時点でプロトタイプを作成、画面をもとにサービス仕様や機能を議論してシステム開発に繋げていくやり方が良いと思ってます。

— UXデザイン部が、事業やサービスの実現をリードしているわけですね。

関さん:

もちろん、関与度にもよるのですが。事業側目線で考えられた企画をユーザー視点と融合させつつ、サービスとしてうまくカタチにしていくところ、画面デザインをもとに、関係者とのコミュニケーションHUBになることも私たちの役割なので、そういった部分では貢献できていると思います。

当社が現在掲げている新規事業でBaaSビジネスのネオバンク事業においても、提携先を意識したサービスの検討、UXデザインを切り口に、戦略を具体化するサービスデザインに関与していくことが増えてきました。

— UX的観点、ユーザー視点の取り入れ方についてはどう考えていますか?

半田さん:

当社は店舗や独自のATM網を持たず、ネット専業で銀行サービスを提供していますので、アプリやWEBが取引チャネルになる以上は、その点を重視するしかないですよね。
どの活動でも、常に顧客の利便性や新しい体験を意識しています。

例えば、2007年の開業当時よりSBI証券とのシームレスな連携サービスや、メイン口座の下にサブ口座を複数持てる「目的別口座」を提供しています。これらは最近は他社でも一般的になってきましたね。

また、ここ最近ではアプリをメインチャネルに据えた取組みを強化しており、生体認証機能「スマート認証NEO」や、カードレスのATM取引機能「アプリでATM」など、新しい体験を提供しています。

デザインやエンジニアリングで顧客の利便性を高め、自己解決手段を提供すること、便利や安心を実感いただいて普段使いの銀行として預金+αな取引動機や、デビットカードの利便性を高めることを念頭にサービスを考えています。

住信SBIネット銀行アプリの置かれている状況

— 住信SBIネット銀行のアプリはダウンロード数も増えていますよね

関さん:

アプリ「住信SBIネット銀行」は、おかげさまで今年(2021年)の3月に累計200万ダウンロードを突破しました。
これまでの運営で機能改善してきたものに、認証機能「スマート認証NEO」、コンビニでATM取引ができる「アプリでATM」といったアプリ独自の機能が加わったこと、また、優遇サービス「スマートプログラム」のランク判定条件に「スマート認証NEO」登録が追加されたことも追い風になっていまして、最近では新規口座開設した人の7〜8割のユーザーが、当アプリを利用しており当社のサービスの中心とも言える存在になっています。

うれしいことにAppAnnieやAppApeからも2020年に成長したファイナンスアプリとして評価いただいています。

「Top Publisher Award 2021 ブレイクしたファイナンスアプリパブリッシャーTOP20」について
「App Ape Award 2020 BEST 100 Apps」について

ユーザーとの一番の接点となるアプリは、ネット銀行にとってはある意味サービスそのものとも言えますので、アプリを軸にユーザー体験を考えていくことが重要だと思っています。また、前述のネオバンク事業においてもアプリチャネルの強化、進化は非常に重要です。当社アプリの成功体験が、ネオバンク提携先のサービス強化につながります。

UX向上プロジェクトという取り組みの立ち上げについて

— これまでもユーザー視点をうまく取り入れてサービス開発を行ってきた御社が、外部リソースを使ったUX向上プロジェクトという取り組みを立ち上げたきっかけはどのあたりにあるのでしょう?

半田さん:

ひとつのきっかけとしては、アプリを利用する層の拡大があります。
これまでは、当社のヘビーユーザーを意識した体験設計を重ねていけばよかったものが、アプリの操作が不慣れなユーザーや、ライトユーザーなど様々なリテラシーの人にお使いいただくようになったことで、いただくご意見、ご要望、問い合わせにも大きな変化が見て取れるようになりました。以前にも増して求められることが多様化したため、これまでのアプローチだけではダメかなと思ったことです。

もうひとつは、現状の課題に対するアプローチだけでなく、ユーザーにとっての課題の奥にあるものや、ユーザーにとっての最終的なゴールも含めてユーザーのことを深く知り、ユーザーの二、三歩先を行くようなことを考えたいと思ったんです。
ユーザーを追いかけても追いかけきれないし、追いかけるのではなく、もっと深く理解してユーザーの先を行くようなことをやっていきたいという思いもありました。

— それでヒカリナにお声がけいただいたのですね。

半田さん:

当初はご相談もかなり漠然としていたと思いますが、「単純にユーザーの声を聞いてペルソナつくってジャーニーなどのアプトプットにまとめて終わり」という話ではなく、「どういったリサーチの手法で何をどう見つけてどのようにかたちにしていくか」、といった部分をゼロから一緒に考えてくれそうなところということでヒカリナさんにご依頼しました。

最終的には、デプスインタビューや、プロトタイプを使ったUXリサーチを複数組み合わせて、ユーザーにとっての体験価値と具体的な施策の方向性を設定するやり方で行なっていただきましたが、我々の狙いにあっていたと思います。

また、口座開設から初期稼働の部分の体験評価と向上も別テーマとしてあったので、こちらもご相談したのですが、実際の口座開設から初期稼働までの流れを、実ユーザーに継続的にやっていただき観察する手法をご提案いただき調査していただきました。
一人の人の行動を継続して観察したり、リアルな口座開設の部分について見るということはできていませんでしたので興味深いものでした。

プロジェクトをやってみて

— ひと段落しましたが、プロジェクトについてはどうでしたか?

関さん:

そうですね。まず、プロジェクト開始当初から我々のサービスや頭の中にあることを素早くキャッチアップしていただいたので、スムーズに物事が進んだという印象があります。
ヒカリナさんはこれまでも当社のサービス改善などの支援をいただいてましたのでそもそも当社サービスの理解が早いということもありますが、競合の状況とか先進的なサービスなどについても同じ目線ですぐに話をすることができたことは大きかったです。チームのメンバーが増えたような感覚がありました。

最初のデプスインタビューから価値を整理した上で、プロトタイプを作っていきましたが、ユーザー体験価値だけでなく、事業目線や具体的な実現の仕方も踏まえつつ具体的にカタチにしながら検討していく進め方も、私たちの日頃の進め方にも近く、かつ刺激的でしたね。

以前はユーザーの声から得られた問題に対し、その個別の声に対する解決方法を検討しがちでしたが、今回は個別の声を整理した上での一段深い部分から施策を検討できていると思います。

— みなさんの深い考えや、新しいアイデアもあって、良いセッションになりましたね。

半田さん:

週2回、多いときは3回くらいやりましたっけ?楽しかったですね。これまでのサービス開発などのプロジェクトですと、プロジェクトスタート時点が盛り上がりの頂点で、プロジェクトが進むにつれて、考えがまとまらずに分散気味になってしまったり、外部の方の理解や対応が追いつかなくなってしまい、こちらが一方的に進める感じになってしまったりとかで、だんだん尻つぼみになっていくケースが多かったのですが、今回はその逆という感じでした。

当社メンバーのアイデアもうまく取り入れていただきながら、別のアイデアを出してくれたり、実現方法なども踏まえてアイデア出ししていただけたので、それをまた皆で検討しながら精度を上げていくことができました。
なので、時間が経過するにつれ実現していくものが深まって、かつ具体的になっていったように思います。

— そう言っていただけると嬉しいです。他には何か収穫と言えるようなことはありましたか?

半田さん:

UXコンセプトがまとめられたのは収穫でした。
常に走りながら部分最適を重ねてきた我々にとって、今後提供すべき価値をシンプルな言葉でまとめられたことはけっこう大きかったです。
注力すべき部分とそうでない部分が明確になりましたし、提供側視点で良かれと思って考えていたことが、ユーザーの実際の行動や体験価値から見ると、微妙にずれていたり行動に移しにくいものだったりするということが分かり、今後の無駄な投資も避けられるのではないかと期待しています。

何より、これまで当社メンバーが個々で考えていたことや議論していたたくさんの点が、ユーザーにとっての価値を中心にして線としてつながった感じがして、そこがとても良かったです。UXのメンバーは良くも悪くも右脳的で自分たちの活動を言語化することよりも手を動かしてしまいますが、今回はアイデアが肥大化して収拾がつかなくなったときに立ち帰れるものになったかなと。

また、外部のパートナーさんと共同でものづくりをしていくことの有効性も見えたことも収穫でした。

今後の取り組みや、実現したいことについて

— 今後どういった取り組みを行っていくか、ですとか実現したいことはありますか?

関さん:

今回はアプリ全体をテーマに広くやりましたが、今後は個々のサービスというか体験に絞って何かを産み出していくようなことをしていきたいです。

当社のお客さまの口座開設動機としては、ATMや振込のコストを挙げるかたは多いと思いますが、そうしたサービスをご利用いただきながら、徐々に貯蓄、投資、決済、ローンなどお取引の幅を広げていただけたらと思います。

半田さん:

当社のブランドビジョン・ステイトメントとして、「銀行をインストールする。世界をアップデートする。」というのを掲げているのですが、まさにアプリをよくすることで、お客さまひとりひとりの金融体験やライフスタイルをアップデートできたらという想いはあります。そのために新しい体験価値をデザインし、提供していこうと思っています。

— それに向かってどんなことをやっていきますか?

半田さん:

チーム力強化が非常に重要になりますね。
まだまだ、社員9名常駐委託5名の14名と小さな組織なので体制強化の必要性は感じています。
ただこればかりはご縁ですので、採用活動継続しつつ、ヒカリナさんのような目線のあうパートナーといろいろやりつつという感じにはなりますね。

— どんな人がチームに必要と考えますか?

半田さん:

UXデザインというかWebやアプリの「デザイン」って、グラフィックやUIを作るだけはなく、サービス全体やユーザーの体験を作ることであり、もっと言うとユーザーに良い体験を提供する仕組みを作ることだと思うので、こうしたことを幅広くやっていきたいと思ってくれる人と、社員、外部リソース分け隔てなくチームを作っていきたいです。

僕も関も、もともとは制作会社のディレクターというかデザイナーですが、当社は自分たちのようなクリエイターがサービスデザインをリードすることもできますし、経営陣と現場の距離も近く、裁量も持たせていただいてるのでとても良い環境だと思います。

— やっぱり良いチームや環境から良いサービスが生まれますよね。これからも良いサービスを期待しています。

半田さん・関さん:

ありがとうございます。 というか、引き続きよろしくお願いします。