住信SBIネット銀行の「かんたん住宅ローン」は、住宅ローンの手続きをデジタル化し、申込から実行までをオンラインで完結できるプラットフォームです。

従来の住宅ローンの手続きは書類や電話でのやり取りが中心で、契約者と不動産事業者にとって負荷となっていました。この課題を解決するため、契約者・不動産事業者・住信SBIネット銀行および銀行代理業者が円滑にコミュニケーションを取りながら手続きを進められるデジタルプラットフォームとして開発されたのが「かんたん住宅ローン」です。

ヒカリナでは、ユーザーリサーチとUIデザインを担当しましたが、そのプロジェクトを振り返りつつ、担当の鈴木さん、岩井さん、中村さん、藤本さんにお話を伺いました。

業務企画部
鈴木さん

UXデザイン部
岩井さん

UXデザイン部
中村さん

UXデザイン部
藤本さん

複雑だった住宅ローン手続きをデジタル化によって改善

—— はじめに、「かんたん住宅ローン」とはどのようなサービスか、ご紹介いただけますか。

鈴木さん:

「かんたん住宅ローン」は、住宅ローンに申し込むお客さまと不動産事業者、そして住信SBIネット銀行や銀行代理業者をつなぐ B to B to C デジタルプラットフォームです。 住宅ローンの申込から実行までをすべてオンラインで完結できます。

岩井さん:

類似アプリとの大きな違いは、お客さまや銀行側だけでなく不動産業者もこのアプリに参加でき、一緒にお客さまのお手伝いをしながら申込を進められる点です。

従来の住宅ローン審査は、お客さまが紙の審査申込書を書いて不動産事業者に渡し、それを銀行側が受け取り審査を行います。 その過程では、申込書の不備などが発生したり、審査状況が銀行側しか把握できず、お客さまや不動産事業者が不安な思いをするといった課題がありました。

「かんたん住宅ローン」では、共通プラットフォームを作ることでこのような課題を解決しながら、ペーパーレスやデジタル化による業務効率化も図っています。

想定ユーザーも調整先も多い難関プロジェクトに挑む

—— それにしてもリリースまで大変な道のりでしたね。振り返ってみていかがでしょうか。

鈴木さん:

住宅ローンマイページという機能では業界的に後発だったので、単純な申込機能やアップロードは当然で、+αの違いをどう生み出すのかを常に意識していました。

ヒカリナさんには、ユーザー側の体験設計の面でご協力いただき、私は住宅ローンという商品性上バックエンド側とのラリーをいかに効率よくするという観点で参画していました。業務構築・システム構築・顧客体験の全体感のバランスをどう取るべきかを最初から最後までずっと考えていたような気がします。

中村さん:

私はホームや入力画面のUI初期案を作成し、ユーザーが今どんなタスクを抱えているのか、どのフェーズなのかがすぐにわかるように設計しました。

骨格を作った後は、さまざまなパターンを想定して場合分けを作る必要がありましたが、ヒカリナさんが多角的にデザインを展開してくれたので助かりました。

—— 今回のプロジェクトのヒカリナの役割は、打ち合わせ時の内容や開発側の要望をUIとしてまとめていくような役割だけでしたので、そこまで大変ではなかったのですが、「何をどうつくるか」のところをリードしていく役割は本当に大変だったと思います。

鈴木さん:

はい、大変でしたね(笑)。
さまざまな立ち位置のユーザーがいることに加えて、プロジェクトに関わる人や部署も普通のプロジェクトと比べるとかなり多かったのでそれも大変でした。

—— 想定すべきユーザーが多く、しかも調整先も多いわけですから大変さも数倍になりますよね。

プロトタイプで議論や調整を進めていく

鈴木さん:

はい。ただ、そんな中、しっかりとしたプロトタイプをつくってもらっていたので助かりました。具体的な絵をもとに話をしながら調整できたのでそこは良かったです。

岩井さん:

最初に必要画面を洗い出して、そこから画面フロー・コミュニケーション方法を検討して、それらを具体的にデザインして、プロトタイプを作ってといった流れをきちんと踏めたのでとてもいい滑り出しになりました。

藤本さん:

実際のモノがあった方が話が進みやすいケースも多いので、今回の進め方は良かったと思います。皆さんの目線もそろった気がします。

—— やはり、シンプルにいろいろとタタキをつくって、それをベースに検討していくのが早いと思います。しかもできるだけ本物に近いもの。ある程度精緻な複数の画面パターンを見ながら、進むべき方向性を議論していくやり方が有効だと思います。

中村さん:

実際に画面として見たり、操作したりすると、盲点や抜け漏れに気づきやすいんですよね。案件が始まった当初は関係者ごとに仕上がりイメージがバラバラだったと思いますが、プロトタイプを見ながら話すことで、目指すべきものへの共通認識が出来上がっていったように思います。

鈴木さん:

そうですね。その具体をもとに、いろんな人といろいろ調整しながら形にしていく部分に専念することができました。

関係者との調整は本当に大変な作業ではありましたが、今思えば充実していましたし、こうした調整ごとは自分の強みだと分かりました。

具体で進めて対話で組み立てていく

—— 我々もこれまで数多くのプロジェクトに関わってきましたが、鈴木さんの推進力と対話力には眼を見張るものがあると感じていました。

そのあたりがボトルネックになってしまっている場合が多いと感じますし、そういった時は我々の方でもいろいろと考えて動く必要が出てくるのですが、今回は安心して鈴木さんと岩井さんにお任せできました。

鈴木さん:

いやいや助けてくださいよー(笑)。
それにしても岩井さんには助けられました。

岩井さんとは当初から役割分担を明確にしていました。大まかなサービス設計は私が担当し、細かい体験設計やUIに落としていく作業は岩井さんに任せる。

プロジェクトを通して、安心して任せることができる場所があるのは非常にありがたかったです。

—— 岩井さんが後ろを守っていた感じがありましたよね。UIまわりや実装まわりの課題をきちんと管理しながら、ひとつひとつ対応していただいていましたし、それによって着実に積み上がっていく感じがありました。鈴木さんの後を追いながら、みんなで前に進めていけましたよね。

岩井さん:

鈴木さんがいろいろと進めてくれたので、細かい部分のケアやサポートに集中できました。

ただ、私の力だけではなく、ヒカリナさんをはじめ、社内のデザイナーやコーディング担当者にも考慮が足りていないところや実装上問題があるところをうまく拾ってもらえて助かりました。

中村さん:

岩井さんの実装周りのケアの仕方やディレクションは本当に素晴らしかったです。画面数が非常に多く、さまざまなユーザーのパターンを想定して課題を対処していくのは相当大変だったと思います。でも、岩井さんはとても丁寧に1画面1画面最後まで対処していて、素晴らしかったです。

藤本さん:

そうですね、もう画面のディレクションは全てお任せして、私はコーダーさんの工数や実装スケジュールの調整に集中しました。イメージがあった上で関係者が議論し、モックの実装はスケジュールや工数管理しながら進行と、いい役割分担で進められたと思います。

鈴木さん:

岩井さんが管理して進めてくれていなかったら、さらに大変なことになっていたはずです。

先ほど推進力と対話力という言葉が出ましたが、まさにプロジェクトには、そこが鍵になったと思います。具体で推進して、あとは対話しながら組み立てていく。そんな感じだったと思います。

それと、関係者との対話もそうですが、あとは、使っていただくユーザーと対話することがさらに大事でしたね。実際に対話することはできないので、ユーザーの気持ちを想像しながらですが。

「リアル」なユーザーリサーチによりニーズや課題が確認できた

—— そのあたりは、ユーザーリサーチもやりながら、ユーザーと対話するように作っていきましたね。不動産業者のところも実際に不動産業者の方に確認しながら。

岩井さん:

精度の高いプロトタイプでリサーチできたので、いろいろ見えてきましたね。

同じ画面でもしっかり読む人、読み飛ばす人がいたのも面白かったですし、意図したとおりに使ってもらえたところは嬉しくなりました。良い面も改善点もしっかり見えましたね。

—— 実際に住宅ローンを借りたことがある人を集めてリサーチしましたが、それなりに本気度が高い感じというかかなりリアルな感じで使っていただけましたので、課題もいろいろと見えてきましたよね。

岩井さん:

ちゃんと使ってくれるのかな、みたいな不安もありましたが、ニーズがしっかりあることもあり、みなさん前のめりにやってもらったので、とてもリアルな感じだったので解像度がとても上がりました。

不動産業者に共有できてサポートもしてもらえるという機能も、住宅ローン借入経験者からとても良い反応が得られましたし、早くリリースしたい気持ちが大きくなりました。

—— ユーザーのみなさんはけっこう前のめりでしたよね。入り込んでいたというか。ある意味リサーチっぽくなかったですね。普通に申し込んでいるような感じで。だからこそいろいろと見えてきました。

自分の役割を超えてプロジェクトをリードしていく

—— 想定すべきユーザーも、調整すべき相手も多い中でいろいろと問題点も出てきたと思いますが、どうやって乗り越えることができたのでしょうか?

鈴木さん:

このプロジェクトの初期段階では、私はUXデザイン部の人間として関わっていました。本来、我々がリードする役割ではなかったと思いますが、プロジェクトが長期化したことで、業務側、プロジェクトオーナー側や開発メンバーも担当が変わったこともあって、事の経緯など含めて状況を一番把握している人間が私となり、自然とUX以外のリードも担当するようになっていきました。

役割の中でしっかりとやるという考え方は大事だと思いますが、大型プロジェクトともなると、こういった自分の役割を超えて動く人がいないと前に進まないなと思っていて。

—— プロジェクトリーダー的な役割でしょうかね。

鈴木さん:

そうですね。プロジェクトが長期化する中で、自然とそうなってきました。

今はUXデザイン部ではなく、業務企画部という部署にいますが、業務企画部はまさにそういったことをやる部門です。

プロジェクトマネジメントやタスク管理も行いながら、主体的に要件検討、整理、推進などビジネス部門、業務部門、システム部門、UX部門を橋渡ししながら案件を推進していく部隊です。

—— 業務企画部が推進と管理を司っているのですね。
ただ、住信SBIネット銀行さんのいいところは、こうした部署の役割を超えて、一人一人がプロジェクトに対して自分事化できているところかなと思います。自分の責任の範囲でないことにも、ちゃんと関心を持っているというか。
あと、住信SBIネット銀行さんのカルチャーというか、みなさんチャレンジングですよね。前例がないなら、自分たちが先にやってやろう、という。みんなそんな感じ。そういうところがとても好きです。

鈴木さん:

まさに業務企画はそういったことを実現に向けて率先して動く部署でありたいと思います。
新しいことをしかけていきたいし、新しいビジネスを作っていきたい。

銀行じゃなくて銀行を柱とした事業会社という感覚でやっているので、無限にやれることがあって、エキサイティングで楽しいです。

かんたん住宅ローンのこれから

—— 今後、かんたん住宅ローンをどうしていきたいですか?

鈴木さん:

2024年の5月にリリースはできたものの、当初の構想からするとまだまだ道半ばです。機能もまだまだ拡充していきますし、利用シーンも増やしていける、ユーザーのバリエーションも考えられる。

また、今は、営業的なところも見ているため、いろいろな人と会話をする機会がありますが、いろんな可能性を秘めていると思っています。

—— 導入を検討する企業と話をすることで、さらにいろいろなことが見えてきそうですね。 

鈴木さん:

今は直接的に推進する立場からは離れはしましたが、バージョンアップをする上で必要な機能は個別に色々と検討しているところです。

プロジェクトの中にいるとどうしても制約的なものと戦う作業にどっぷり浸かってしまいますが、ちょっと離れた立場から見ると、いろいろなアプローチのアイデアがわいてきます。

—— これからの展開に期待しています。

鈴木さん:

ありがとうございました。

取材:株式会社ヒカリナ 大塚啓二