ここ数年で、銀行アプリに目的別口座の機能を導入する動きが広がってきました。この機能は、旅行費や教育費など目的ごとにお金を分けて積み立てておくのに適しており、貯蓄を後押しする手段として銀行側も力を入れ始めているようです。
ただ、海外の銀行アプリを見ると、目的別口座はもう一段進んでいる事例が多数見受けられました。そこで今回は、海外銀行の目的別口座事例を①入金・②貯蓄・③引き落とし・④支払いという4つの観点から整理していきます。
事例1:入金と同時にお金を仕分ける
ポイント
- 入金後に手動で振り分けるのではなく、入金と同時に自動で目的別口座へ振り分けられる
- 給与などの入金タイミングが、そのまま家計整理の起点になる
- 他の目的別口座機能と組み合わせることで、家計管理の自動化がさらに進む
Monzo|Salary Sorter
Monzoはイギリス発のチャレンジャーバンクです。同行が提供する「Salary Sorter」は、給与などの入金が確認されると、あらかじめ設定した割合に従って、複数の目的別口座に自動でお金が振り分けられる機能です。給料日がそのまま家計整理のタイミングになるため、あとから手動で振り分ける手間がなく、家計管理を続けやすい仕組みになっています。
bunq|Organize Your Income
bunqはオランダ発のチャレンジャーバンクです。同行の「Organize Your Income」は入金時の自動振り分け機能で、ETFや株式も振替先の対象に含められる点がMonzoとの違いです。出費の管理にとどまらず、資産の配分先まで含めて管理できる点が特徴です。
その他の類似事例|Starling Bank・Up
その他、イギリスの「Starling Bank」やオーストラリアの「Up」にも、入金時の振り分け機能が備わっています。いずれも、これから紹介する目的別口座関連の他の機能と合わせて使うことで、より家計管理を容易にしてくれます。
まとめ
国内でも自動振替の仕組みはありますが、その多くは「メイン口座から目的別口座へ、設定した日に移す」という形です。これらの事例のように入金タイミングに連動する設計は、まだ国内ではあまり見られません。給与振込と連携する形で実現できれば、「給料日に何もしなくても家計が整理されている」という体験が生まれます。家計管理が続かない理由のひとつが「手動でやることが多い」点だとすれば、こうした設計には導入する意義がありそうです。
事例2:工夫のある動機づけで貯蓄を促す
ポイント
- 貯蓄の置き場を用意するだけでなく、貯蓄を続けるための動機づけまで設計されている
Up|Maybuy
Upはオーストラリア発の、若年層をメインターゲットとしたチャレンジャーバンクです。同行の「Maybuy」は、オンラインで見つけた商品を保存し、その価格を目標額とした自動積立ができる目的別口座です。商品名や写真など具体的な情報が表示されるため目標を意識し続けられます。ティーンが後払いで後悔の残る買いものをしてしまうという問題意識から生まれた機能で、「欲しい」という気持ちを衝動的な消費ではなく、貯蓄への動機に変える体験を提供しています。
Up|Grow & Flow
同じくUpの目的別口座では「Grow & Flow」という仕組みが採用されており、その月に引き出さなければ高金利が適用され、引き出せば低金利が適用されます。Maybuyが具体的な商品を動機に貯蓄を後押しするのに対し、Grow & Flowは今月の金利という短期的なメリットを動機に、貯蓄の継続を後押しする設計となっています。
Monzo|Savings Pots
イギリスのMonzoが提供する「Savings Pots」も、貯蓄用の目的別口座です。短期的な貯蓄向けと長期的な貯蓄向けの2種類があり、長期向けでは出金回数が年2回以内だと金利がさらに上がる仕組みになっています。引き出さずに置いておくこと自体にインセンティブを与える設計で、イギリスの非課税制度(ISA)の対象となるSavings Potsも作成できる点も特徴です。
まとめ
いずれの事例も、単に貯蓄の置き場を用意するだけでなく、貯蓄を続けるための動機づけまで組み込まれています。国内にも積立定期や自動振込の仕組みはありますが、「なぜ続けたくなるか」まで設計されているものは少ない印象です。特にUpのように、貯蓄を始める動機を「欲しいもの」や「今月の金利」に結びつける発想は、貯蓄習慣のない若年層にとって有効かもしれません。金利や税制優遇だけでなく、こうした行動設計の観点から目的別口座を考えると、また違うアプローチが見えてきそうです。
事例3:定期払いを目的別口座から直接引き落とす
ポイント
- 目的別口座に分けたお金を、引き落とし時にメイン口座へ戻す操作が不要
- 請求ごとに引き落とし元の口座を設定しておくことで、以降は自動で処理される
Starling Bank|Bills Manager
Starling Bankはイギリス発のチャレンジャーバンクです。同行の「Bills Manager」は、あらかじめどの請求をどの口座から引き落とすかを設定しておくと、以降はその設定が引き継がれ、目的別口座から直接引き落としが実行される機能です。さらに、入金時の自動振り分け機能を併用すれば、引落し予定額を目的別口座に分ける操作も不要になり、入金を待つだけで引き落としの管理ができるシームレスな体験を提供しています。
Monzo|Bills Pot
イギリスのMonzoが提供する「Bills Pot」は、引き落とし時に目的別口座の残高が代表口座へ自動で振り替えられ、そこから引き落としが実行される仕組みです。目的別口座の残高が不足していても、メイン口座の残高で補ってくれるため、引き落とし漏れが起きにくい設計になっています。
N26|Spaces
N26はドイツ発のチャレンジャーバンクです。同行の目的別口座「Spaces」には固有の口座番号が付与されるため、家賃の引き落とし口座を登録するときと同じ要領で、サービス側で引き落とし口座として設定するだけで使えます。銀行アプリ内での特別な操作が不要な点が、この3つのなかで最も手軽かもしれません。
まとめ
分けたお金を引き落としに使う際、メイン口座への振り替えが必要なケースは多いですが、これらの事例はその手間を省く設計になっています。目的別口座を家計管理ツールとして使う場合、振り替え忘れによる引き落とし不能は起きやすい問題です。StarlingやMonzoのように請求と口座を紐づける方式も、N26のように口座番号を付与する方式も、方向性は異なりますが「余計な操作を挟まない」という点では共通しています。国内での実現を考えると、既存の自動振替の仕組みを活かしやすいMonzo型の方が、導入のハードルは低いかもしれません。
事例4:目的別口座に紐づくカードで支払う
ポイント
- 目的別口座に紐づくカードを発行し、その残高から直接支払いができる
- 支払いは紐づいた目的別口座の残高から引き落とされるため、用途ごとの予算を守りやすい
Starling Bank|Virtual Card
イギリスのStarling Bankでは、Spaceに紐づく「バーチャルカード」を発行できます。Apple Payなどのモバイルウォレットにも追加できるため、実店舗での支払いにも対応しています。支払いは常にそのSpaceの残高から引き落とされるため、残高が尽きれば決済が断られます。用途をまたいで使いすぎる心配がない点が、このバーチャルカードの特長です。
Up|Essentials Saver
オーストラリアのUpでは、「Essentials Saver」という目的別口座に限りバーチャルカードを発行できます。利用できるのはオンライン決済とカード引き落としのみで、実店舗での支払いには対応していません。一方で、メイン口座よりも高い金利がつくため、支払いと貯蓄の両方の文脈で活用できる点が特徴です。
bunq|Secondary PIN
オランダのbunqでは、デビットカードの引落口座を複数の口座から自由にアプリ上で変更できるようになっています。特に、一部の有料プランでは1枚のカードに2つのPINを設定することが可能です。PINを使い分けることで自動的に引き落とし口座を切り替えられ、食費用の口座から払いたいときは食費用のPIN、週末の外出費は別口座のPINというように、用途に応じた使い分けができます。
その他の類似事例|N26、Monzo
このほか、ドイツの「N26」やイギリスの「Monzo」でも同様にデビットカードの支払いを目的別口座から引き落とせます。
まとめ
こうした事例を見ると、目的別口座とデビットカードを組み合わせたこの機能は、クレジットカードよりもデビットカードの利用率が高いヨーロッパやオーストラリアで多い印象です。クレジットカードが主流な日本での導入を考えると、そのまま当てはまるとは言いにくいかもしれませんが、支払いという利用文脈で目的別口座を活用している事例として、何かヒントは得られるのではないでしょうか。
全体のまとめ
今回は、下記のような海外銀行の目的別口座事例を調査しました。
- 入金と同時にお金を仕分ける
- 工夫のある動機づけで貯蓄を促す
- 定期払いを目的別口座から直接引き落とす
- 目的別口座に紐づくカードで支払う
どの事例にも共通していると感じたのは、単にお金を分けること自体をゴールにしていないという点です。国内の金融サービスでも、目的別口座を単なる「お金を仕分ける箱」で終わらせず、目的別口座を使用する前後にどのような体験を提供するのか、考える余地はまだあるように感じました。
引き続き、海外のFintech事例を調査していきますので、ぜひまた読んでいただけたら嬉しいです。